相続で家族信託をどのように活用するかを説明するイメージ


さいたま市の行政書士、野口です。

家族信託にはメリットだけではなく、事前に知っておくべき注意点もあります。その一つが、相続した空き家を売却する際の検討事項となる3,000万円特別控除が使えない可能性があることです。

今回は、契約する前に知っておきたい「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例」と家族信託との関連について、わかりやすく解説いたします。

家族信託の契約前に確認を

先日、家族信託を検討されている方から、このようなご質問をいただきました。

「家族信託には何かデメリットがありますか?」

家族信託は、認知症対策や財産管理の方法として注目されている制度です。親が元気なうちに財産管理のルールを決めておくことで、将来の不安に備えることができます。

残念ながら、家族信託は万能ではありません。ご本人の希望や財産の状況によっては、別の方法が適していることもあります。そのため、制度の仕組みだけではなく、「将来起こり得ること」まで考えて制度を選択することが大切だと考えます。事前に情報を持たないまま家族信託を設定すると、将来的に思わぬ税負担が生じることもあります。

その一つが、相続後の空き家売却で使える3,000万円特別控除が利用できなくなる可能性があることが挙げられます。私自身、家族信託の研修でこの点を知ったとき、これは家族信託の利用を検討される方には事前に必ず伝えるべき事項、と強く感じた次第です。


空き家の3,000万円特別控除とは?

例えば、地方で親が一人暮らしをしていて、亡くなった後に子どもが実家を相続するケースがあります。ただ、すでにご自宅を所有されている方にとっては、「実家をどうしよう…」「今後、住む予定もないので売却したいが…」など悩まれる方も多いです。

このような場合では、相続した空き家を売却して利益が出ると、譲渡所得税がかかることがあります。そこで利用できる可能性があるのが、「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例」です。

これは、一定の条件を満たせば、売却益から最大3,000万円を差し引ける制度です。税負担を大きく軽減できるため、要件を満たしているのであれば、ぜひ活用したい制度です。

参考:『国税庁:被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例』

空き家特例を受けるための要件

この制度を利用するためには、いくつかの条件があります。主なポイントは次のとおりです。

①亡くなった方が一人暮らしだったこと
対象になるのは、被相続人が一人で住んでいた家です。親子同居など、複数人で住んでいた場合は、原則、対象外となります。

② 昭和56年5月31日以前に建築された戸建てであること
対象になるのは、昭和56年5月31日以前に建てられた住宅となります。旧耐震基準の建築物が対象となる場合は建物を取り壊して更地で売却するか、耐震補強工事を施行する必要があります。尚、マンションなどは対象外です。戸建てが前提となります。

③ 相続または遺贈により取得していること
制度上、相続または遺贈により取得されたことが必要です。普通の相続なら制度利用について問題ありません。しかし家族信託では、この条件が問題になります。後程、触れさせていただきます。

④ 相続後、空き家のままであること
相続から売却(譲渡)までの間に、事業、貸付け、居住に使われていないことが必要です。建物を取り壊した後の敷地についても、同様に利用されていないことが条件となります。

⑤ 相続開始から3年以内に売却すること
適用の期限として相続開始から3年経過する年の12月31日までの売却が必要となります。尚、この制度の適用期限は令和9年12月31日までとなっております(令和8年5月現在)

⑥ 売却価格が1億円以下であること
土地建物を合わせた売却価格が1億円以下である必要があります。

⑦ 親族などへの売却ではないこと
配偶者や子など、特別な関係にある人への売却は対象外となります。

家族信託では特例が使えない?

今回の重要なポイントなりますが、国税庁の文書回答事例(東京国税局・令和4年12月20日)では、家族信託終了後に取得した不動産は、「相続」や「遺贈」による取得には当たらないという考え方を示しています。

つまり、家族信託が終了して財産を受け取ったとしても、それは制度上の「相続」ではないと判断されるため、空き家の3,000万円特別控除の適用対象外となることが明確にされたといえます。これは家族信託を検討するうえで、非常に大きな懸念材料となります。

参考:『令和4年12月20日 東京国税局 文章回答事例』


ただ、家族信託が使いづらいという話ではありません。むしろ、他の生前対策と比べても、認知症対策、財産管理、財産整理として、幅広く活用出来る制度という位置付けは変わらないと考えます。

その上で、空き家対策が必要になるなどのリスクの可能性を鑑みて、どのような対応を事前に行っていく必要があるのか考えるべきだと思います。

例えば、家族信託を設定した場合、親が生きている間に、信託中の家を売却することも一つの手段です。この場合は、本人の居住用財産として、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」が使える可能性があります。

別の見方をすると、財産を託された受託者が、その時の状況や考えで不動産を整理することが家族信託では可能となります。そう考えると今回の内容はデメリットでなく、メリットとも言えるかもしれません。

又、空き家にしないことを前提に、親との同居を検討するなど、状況によって対応方法は広がっていくと考えられます。このように、事前に多くの情報を得た上で、改めて家族信託が必要となるか検討していくことは、生前対策において非常に有効だと思います。

今回は家族信託のデメリットの一つとなる、「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例」について触れさせていただきましたが如何でしたでしょうか。

家族信託という制度は生前対策において非常に有効な手段となりますので、多くの方にご利用いただきたいのですが、その方の目的や環境によって最適な方法は変わると考えております。

その為、家族信託だけに拘らず、遺言や任意後見も含めて比較することが大切です。将来、「こんなはずじゃなかった」とならないためにも、早期から専門家へ相談されることをお勧めします。

参考:『家族信託と任意後見、どちらを選ぶべき?制度の違いをわかりやすく比較』

家族信託は、ご家族の状況や目的によって最適な形が大きく変わる制度です。「自分の場合はどう考えればよいのか」迷われている方は、お気軽にご相談ください。

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執筆: 特定行政書士 野口 広

専門: 任意後見・家族信託・遺言相続