遺言書や後見制度を取り巻く法制度は、社会全体のデジタル化や高齢化の進展に伴い、大きな転換期を迎えています。
2026年(令和8年)の国会において審議・可決された遺言制度等の改正により、公布から2年半以内の施行となりますが、パソコンやタブレット等のデジタル技術を活用した、新たな遺言の方式としてデジタル遺言(保管証書遺言)が新設されることになりました。
今回はこのデジタル遺言の仕組みや従来の遺言との違いにつきまして、注意点を交えて解説させていただきます。
■遺言制度の見直しが行われる背景
これまでの自筆証書遺言は全文の自書が原則とされていて、特に高齢者や身体に不自由のある方にとって大きな負担となっていました。一方で、公正証書遺言は安全性や確実性が高いものの、費用や手続き面で作成を躊躇してしまうという声も聞いております。 実際に遺言書を作成しようとして断念されてしまった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
こうした課題を解消し、社会全体のデジタル化の推進や、相続紛争・遺産分割未了状態の抑制、相続登記の促進につなげるため、より簡便な遺言書作成を目的として、信頼性を確保した新しい遺言方式としてデジタル技術を活用した制度が整備されることになったという背景があります。
ついに遺言書もデジタル化するのか…、と感慨深いところもありますが、やはりメリットだけでなくデメリットも考慮しながら利用していく必要があるようです。
尚、遺言書が必要と考えられる方につきましては、下記ブログにて解説してますので合わせてご参照ください。
参考:『遺言書は誰に必要?7つのケースでわかる作成すべき人を行政書士が解説』

■新設される「デジタル遺言(保管証書遺言)」とは?
今回、新たに創設されるデジタル遺言(保管証書遺言)とはどのようなものでしょうか?
簡単にお伝えすると、電磁的記録(データ又は書面)により作成した遺言を、遺言書保管所に保管してもらうことを要件とした制度となります。主な特徴は以下の通りです。
• 作成方法:
電磁的記録又は書面により作成します(自筆証書遺言とは異なり、作成者は遺言者本人に限られません)
• 真正性の確保:
押印要件はなく、署名(電磁的記録の場合は電子署名、書面の場合は署名を想定)と保管時の本人確認となります。
• 保管の義務化:
遺言書保管所において適切に保管・管理されることが効力要件となります。
• 検認が不要:
法務局(遺言書保管所)で保管されるため、相続開始後の家庭裁判所による検認が不要となります。
■ 作成・保管の手続きの主な流れ
保管証書遺言の作成から保管までの具体的な流れは以下の予定になっています。
◆ 保管証書遺言書の作成
電磁的記録または書面により作成します
(ファイル形式や書面の様式等は法務省令で規律されます)
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◆ 遺言者による署名等の対応
遺言者本人による電子署名または署名を行います
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◆ 遺言者本人が遺言書保管官に申請
代理人による申請は不可となります
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◆ 本人確認資料の提示・提供
マイナンバーカード等により、保管官が確認を行います
(ウェブ会議方式が認められる場合もあります)
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◆ 遺言者が遺言書保管官の前で遺言の全文を口述
財産目録は、閲覧させる等の措置を講じる場合は口述はありません
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◆ 外国語遺言への対応
日本語翻訳文の提供や通訳人による特則が設けられています。
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◆ 遺言書保管所において保管・管理
これが効力要件となります。
■保管証書遺言を利用する際の留意点
新制度である保管証書遺言は利便性が高い一方で、運用方法や実際の現場においては、以下のような点に注意して慎重に対応する必要があると指摘されております。
• 保管=内容の有効性・確実性の保証ではない
法務局での保管や本人確認は、あくまでも書類やデータの存在と名義の確認にすぎません。遺言の内容が法的に問題無いか、実際に遺言書通りに実現できるものか保証されるわけではないため、事前の専門家によるリーガルチェックは極めて重要と考えられます。
• 本人の真意や判断能力について
作成や申請の段階で、遺言者本人に十分な判断能があったか、あるいは周囲からの強要や干渉といった不当な誘導がなかったかという点が問題になる懸念があります。保管機関の形式的な審査だけでは、このような真意までを立証・担保しきれないリスクは依然として残ります。
• ウェブ会議等におけるセキュリティ事項
画面越しでの本人確認や意思確認を行う場合、本人の周囲に不正なプレッシャーをかける人物がいないか、あるいは機器操作の不正な作業が行われていないかを正確に見極めるのは非常に難しいと考えられます。
• 細かなルールや運用基準への対応
ファイル形式の指定や、具体的な確認プロセス、詳細な要件の多くは今後の省令やガイドライン、実際の行政運用に委ねられています。そのため、制度利用の際は常に最新の運用ルールを確認・把握しておくことが不可欠となります。
■他の遺言方式との比較
現在利用されている他の遺言方式とのメリット・デメリットについて記載します。
遺言者の状況や環境など、ニーズに合わせて選択できますのでご参照にしてください。
- 自筆証書遺言:
手軽に作成できるが、自書・保管・検認の負担や紛失・改ざんリスクがある。 - 自筆証書遺言+保管制度:
公的機関で安全に保管できるが、自書での作成における負担は残る。 - 保管証書遺言(デジタル遺言):
手書きの負担を避けつつ、電磁的記録や書面による柔軟な作成と公的保管制度を利用できる。ただし、真意性確保や第三者関与・目録確認などの課題あり。 - 公正証書遺言:
公証人が関与するため、内容が複雑で紛争リスクが高い場合に最も安定性が高いが、手数料・証人2名など必要事項あり。
■押印要件の廃止やその他の改正点
今回の法改正では、デジタル遺言の新設だけでなく、既存の遺言方式の見直しや、成年後見制度の改正も行われます。 参考までにお伝えさせていただきます。
【押印要件の廃止】
普通方式である自筆証書遺言(財産目録を含む)や秘密証書遺言における押印要件が廃止されます。
【特別方式遺言へのデジタル技術導入】
危急時遺言などにおいて、録音・録画やウェブ会議方式などが導入され、要件が柔軟化されます。
【証人・立会人の欠格事由の見直し】
受遺者の被用者や、法人受遺者の役員等が欠格事由に追加されます。
参考:『【2026年法改正】成年後見制度が大きく変わります|現行制度との比較と見直しのポイントを専門行政書士が解説』

保管証書遺言の創設や押印要件の廃止によって、遺言書の作成はこれまで以上に私たちの身近な選択肢の一つになっていくと考えられます。
その一方で、本人の真意や判断能力が本当に担保されているのかという点については、更なる慎重な判断と専門家による事前の備えが強く求められると言えます。
遺言書は、ご自身の想いを形にする大切なものです。ご家族に安心して引き継いでもらうためにも、内容をしっかり整理して有効に活用していきたいですね。遺言書作成についてご検討されている方は、お気軽にご相談ください。