相続で家族信託をどのように活用するかを説明するイメージ


こんにちは、行政書士の野口です。

今回は家族信託と後見制度との比較について触れさせていただきます。



■家族信託と後見制度の違いについて


最近、家族信託を扱うセミナーで、ご参加いただいた方からよく質問をいただくことがあります。

『家族信託と任意後見契約だと、どちらを選んだ方が良いの?』

家族信託と任意後見を比較すると、どちらも認知症対策としての機能を持っていて、契約者が元気な時に締結する契約ですので、将来の備えを検討されている方の場合、家族信託の説明を聞いた後で疑問が生じてもおかしくないですね。


実際のところ、このようなご質問をいただいた際には、『断然、家族信託が有効です』や『任意後見の方がお勧めです』なんて、その場ですぐに回答することは出来ないと思っています。


どちらの制度もメリットとデメリットがありますので、ご相談いただいた方の環境や、お考え等を確認して、どちらの制度が、その方にとって有用となるのか判断するべきだと考えております。


実は、士業の中でも専門として業務に携わっていなければ、明確に説明できない場合もあるんですね。ですので、一般の方であれば、当然、疑問に思われる方が多くいらっしゃることも頷けます。


当方のブログでは、各々の制度については別々の記事にして解説させていただいておりますが、そのような背景も踏まえまして、今回は改めて、直接の比較できるポイントをピックアップして解説してみたいと思います。




■成年後見制度の概要



まず、成年後見制度ですが、『法定後見制度』と『任意後見制度』と大きく2種類に分けることが出来ます。


法定後見制度では、更に補助、保佐、後見と分けられますが、今回は割愛させていただき、法定後見の一括りで進めさせていただきます。


法定後見制度も任意後見制度も、どちらも判断能力が低下された方が利用するための制度であって、判断能力が低下した際に誰も支える家族がいなくても国が守ってくれるという理由から、国が支えるセーフティネットと表現されております。


両者の大きな違いですが、ざっくりとお伝えすると、法定後見制度は判断能力が低下された方が利用する制度であり、任意後見制度は元気な方が、判断能力低下に備える意味で利用できる制度になります。


どちらの後見制度も、『後見人』がご本人を保護することが目的となる制度ですが、法定後見制度では家庭裁判所が、そして任意後見制度では、事前にご自身で後見人を決められるという違いが大きいです。


法定後見制度を利用する時には、既にご本人が認知症などの判断能力が低下された後となりますので、家庭裁判所が選んだ後見人の判断を仰いで運用される為、必ずしもご本人の考えに則った後見業務になるかは、残念ながら未定です。


それに対して、任意後見制度は、ご本人が元気なうちに契約として結ぶことになりますので、ご自身の考え方を事前に確認することが出来、ご自身が信頼できる方を後見人として選択することが出来ますので、老後の備えとしては安心度が高い制度だと考えます。


この任意後見制度が家族信託と比較される理由としては、任意後見制度は家族信託と同様に、判断能力が低下する前に締結する契約であるという事が大きいのではと感じます。


又、ご本人が希望する人を後見人として選択出来る事、そして判断能力低下後も、ご自身が指定した後見人が財産管理を行うことが出来る事、といった事由からも家族信託と似ている制度と思われることも要因ではないでしょうか。


家族信託と任意後見制度は、どちらも財産管理ができる機能を持ち合わす契約となりますが、後見制度には家族信託にはない業務(義務)を後見人が担うことになります。それが『身上保護』(身上監護)という業務になります。


身上保護とは、ご本人の生活や健康、福祉を守ることを目的としていて、医療サービス、施設への入居、日常生活支援、といった対応を行うことが義務付けられております。


これが、国が支えるセーフティネットと言われる所以の一つでもあり、家庭裁判所が選任する法定後見人も、ご本人が依頼した任意後見人も業務として対応しなければなりません。


後見制度は、『財産管理』と『身上保護』の2本柱を軸として運用される制度ということは家族信託と比較する上でも非常に重要な項目であると位置付けられております。


参考:『任意後見についてご家族で話し合ってみませんか?ー終活のご提案ー』


■家族信託の概要



それでは、家族信託についてはどうでしょう?


家族信託を利用する大きなメリットとしては、ご本人が判断能力低下、体力低下となる前に信用出来る家族に、自分の財産管理を依頼し(信託)、ご自身が希望する通りの柔軟な財産管理・運用を進められるということになります。


家族信託契約には、家庭裁判所の関与などありませんし、後見人が選任されることもありませんので、委託者の希望に則って、受託者に託された財産を受益者のためとなるように運用をしていく事が可能になります。


では、家族信託の方が財産管理しやすいのではないか?と思われる方も多いと思いますが、少なからずデメリットも存在していることも事実です。


まず金銭を信託財産とする場合は、既存の口座は利用せず、信託口口座や信託専用口座を新たに準備していただき、その口座に委託者本人が財産を移動させる必要があります。


又、信託口口座は、全ての金融機関で対応できる訳ではなく、もし対応していたとしても信託口口座の開設には、開設費も発生することになります。


そして、信託財産に不動産がある場合では、受託者への信託登記の変更をしなければなりません。その為には法務局に出向き、対応する必要があります。


尚、この信託登記は、いわゆる見かけ上の変更登記となるのですが、実際に権利者が変わることについて抵抗感を持たれる方も少なくありません。その為、直前になり、委託者が家族信託の利用を拒む状況も発生することがあるようで、その点では導入に関しては少々ハードルが高いと感じられます。


前項で後見制度は財産管理だけでなく、『身上保護』との2本柱と解説しましたが、家族信託では、受託者にそのような義務は発生しません。ですので、委託者の日常生活支援などはなく、受託者は純粋に財産管理を対応する役目になることも大きな違いだと思われます。


ただ、家族信託を導入する前提としては、『円満な家族間での柔軟な財産管理が目的』となりますので、身上保護という義務が設定されなくても、実際はご家族でその方の生活支援は可能になりますよね。


参考:『家族信託の仕組みとは?―相続で使える新しい選択肢-』

■費用発生の違い



先にお伝えしましたが、成年後見制度は、判断能力が低下した方を保全することを目的とした、国が管理するセーフティネットであるとお伝えしました。その為、厳格な運用が求められる制度となります。


法定後見制度では家庭裁判所が法定後見人を、任意後見制度では制度利用開始時には家庭裁判所が任意後見監督人を選任することが、その厳格な運営の現れだと考えます。


何故なら、法定後見人、任意後見監督人には、報酬の支払いが家庭裁判所から指示されることになります。その報酬額は決して安くはないです。後見人(後見監督人)は報酬を得ることから、その方を保護する役目について真摯に取り組まなければなりません。


そして、一度、後見人(後見監督人)が選任された場合は、ご本人が亡くなるまで契約は継続されることになりますので、最終的に支払う費用としては、かなり大きな額が予想されます(2025年12月現在)

参考》■成年後見制度を利用した場合、
  任意後見監督人報酬 : 月額1~2万円(5年間で 60~120万円)
  法定後見人報酬   : 月額3~6万円(5年間で180~360万円)




家族信託で発生する費用は如何でしょう?


家族信託では家庭裁判所は関わりませんので、後見人への報酬などは発生することはありません。この点では後見制度と比較して大きなメリットになると思います。


但し、先程も触れましたが、信託財産が金銭の場合は信託口口座の開設で費用が発生することになります。又、不動産が対象となる場合は信託登記手続きの登録免許税が発生いたします。尚、所有権移転登記の登録免許税は非課税となりますので、そこは有難いですね。


他に発生する費用としては、専門家への契約書作成、公正証書にする際の手数料、不動産登記変更における司法書士への手数料、などが挙げられますが、契約開始時には、ある程度の初期費用が発生したとしても、その後に発生する費用がありませんので、その点では安心できます。



■その他の比較




それぞれの特徴における比較となりますが、この内容も制度利用の検討項目になるのではないかと感じております。




まず任意後見制度は、契約者が元気な時に契約を行うものとなりますが、実際に任意後見制度が運用されるのは、家庭裁判所に任意後見の申立てをして、任意後見監督人が選任されてからとなります。


そのような理由から、契約してから、ご本人の判断能力低下時までは、『寝かせておく契約』という表現を使ったりします。契約された方によっては、判断能力低下が見られず、備えとして契約した任意後見が発動されないこともあり得る訳です。


ただ、逆の見方をすると、判断能力の低下の有無を確認する為に、継続的な見守りが必要とされる制度と言えます。特にお一人身で暮らされている方や、親族が遠方にいらっしゃる方の場合は必須事項となります。


その為、『寝かせている任意後見契約』を有効に運用していくために『付随契約』も合わせて契約いただくことが非常に重要となります。


私が任意後見契約について色々とご教授いただいた大先輩がいらっしゃるのですが、その先生からも、任意後見契約を締結する際は、付随する契約の重要性も合わせて紹介し、検討していただくことは重要項目である、と教えられました。


付随契約は、ご本人の環境などによって必要であるものとそうでないものを選択できるというのも、ご自身の状況を整理する上でも、安心できる大きなメリットであると思います。

見守り委任契約 ・・・定期的に訪問・連絡など状況確認
財産管理委任契約・・・ご本人に代わって入出金・必要な支払を代行
死後事務委任契約・・・亡くなった後の入院費の精算や葬儀・遺品整理など


参考:『任意後見契約だけじゃ不安? 終活で押さえたい付随契約のポイント』




家族信託の場合ではどうでしょうか?



家族信託は、契約した時点から、委託者の財産を受託者に管理権限が移りますので、任意後見制度のような付随契約は不要となります。


管理権限が移るといっても、委託者が元気なうちは、実質上の財産管理者のままですので、ご自身の判断やご家族との話し合いで、受託者への権限委譲を検討していけるのは委託者としては安心できる制度だと感じます。


ただ、家族信託を導入する際は、関係する税金関連について確認しておく必要があります。注意いただく税関連につきましては別ブログに譲りたいと思いますが、状況や考えなどを整理して検討されることをお勧めいたします。





今回は家族信託と後見制度の比較について触れさせていただきましたが如何でしたでしょうか。


どちらも制度もメリットデメリットがあり、どちらを導入されるかは、その方の環境は考え方にも左右されることになります。状況を整理して進めることが必要となりますので、両制度について精通している専門家へのご相談をお勧めいたします。


家族信託における契約につきまして、ご相談を希望される場合は家族信託専門士の当事務所までお気軽にご相談いただければと存じます。

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行政書士 野口広事務所のホームページ

執筆者: 特定行政書士 野口 広(登録番号 第24131124号)

専門分野: 任意後見契約・家族信託・遺言・死後事務委任契約など